商品を作った理由、顧客が抱えていた課題、担当者が試した工夫。機能や価格に加えて、こうした仕事の背景を伝える方法がストーリーテリングです。代表的な型、素材の集め方、媒体に合わせた編集、公開後の測定までを整理します。事実の記録から、自社の発信を組み立てるためのガイドです。
この記事の読み方

この記事でわかること 全8テーマ
01なぜマーケティングにストーリーテリングが必要なのか
商品の機能と価格だけでは、どのような場面で役立つか、なぜその仕様にしたかまで伝えきれない場合があります。検討者から実際に聞かれる質問を集め、説明が不足している部分を探してください。
ストーリーテリングでは、人物、状況、判断、変化の過程を結び付けて説明します。読者が知りたい背景に合わせ、創業、開発、顧客支援などから素材を選びます。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 理解 | 背景や使い方が伝わったかを質問・反応から確かめます。 |
| 記憶や共有 | 記憶や共有が必ず増えるとはせず、対象者と媒体に合わせて調べます。 |
| 比較軸 | スペック訴求 | 物語訴求 |
|---|---|---|
| 内容 | 仕様・機能・料金 | 背景・判断・変化の経緯 |
| 根拠 | 仕様書・契約条件 | 取材・記録・確認済みの事例 |
| 読み手の疑問 | 何ができて、いくらか | なぜ作ったか、どう使われたか |
| 組み合わせ | 比較できる条件を掲載 | 条件の背景を具体的に説明 |
例えば導入事例なら、課題と対応の経緯を伝えた後に、使った機能と導入条件を示します。物語と仕様が食い違わないよう、同じ記録に基づいて確認してください。
02ストーリーテリングの基本構造|3つのフレームワーク
構成の型は、集めた素材を並べるための道具です。以下では原典の説明を示したうえで、実際の記事にどう応用するかを整理します。素材を型に合わせて作り変えず、確認できる経緯を使ってください。
1. ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)
Joseph Campbell Foundationは、英雄の旅の中心を「出立・イニシエーション・帰還」の3段階として説明しています。以下の5つは、顧客事例を考えるために本記事で整理した応用例です。原典が定めた固定の5段階ではありません。
2. PASTORフォーミュラ
PASTORは、Ray Edwardsが示す文章の組み立て方です。問題、影響、物語と解決、変化と証言、提案、応答の順で素材を整理します。成果を保証する公式として扱わず、必要な説明の抜けを確認するために使います。
PASTORフォーミュラの6ステップ
3. Before-After-Bridge(BAB)
BABは、Before(変化前)、After(変化後)、Bridge(その間の方法)の順で説明する構成です。Bufferも自社で使う書き方として紹介しています。顧客事例や短い投稿では、どの課題に何を行ったかをまとめる際に使えます。
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 英雄の旅を応用 | 経験の経過や、判断が変わった場面を伝えたいときに検討します。 |
| PASTOR | 問題から提案・行動案内まで、説明の順を整理したいときに検討します。 |
| BAB | 対応前後と、その間に行ったことを短く説明する際に検討します。 |
顧客事例では「顧客・課題・支援者」を分けると、担当範囲を説明できます。創業や採用の記事では創業者や従業員を中心にして構いません。どの場合も、読み手が何を理解できる記事かを先に決めます。
Joseph Campbell Foundationは中心となる3段階と、物語ごとの様々な展開を分けて説明しています。 出典:Joseph Campbell and the Hero’s Journey|Joseph Campbell Foundation
Ray Edwards本人の説明では、SはStory and Solution、TはTransformation and Testimonyを表します。 出典:For Better Copywriting, P.A.S.T.O.R.|Ray Edwards
BufferはBefore・After・Bridgeを、現状、変化後の姿、その間の方法を説明する構成として紹介しています。 出典:A Crash Course in Microcopy|Buffer
03共感を生むストーリーに必須の5つの要素
構成を決めたら、読者が状況を理解できる材料を揃えます。以下の5点は編集の確認項目です。全ての物語に波乱や失敗を付け加えるための条件ではありません。
登場人物のリアリティ
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 役割 | 何を担当する人かを示します。 |
| 状況 | 当時、何に困り、何を判断する必要があったかを記録します。 |
| 属性 | 年齢などは内容に関係し、掲載を了承された場合だけ使います。 |
葛藤と障害
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 困りごと | 実際に解決を必要とした課題を聞きます。 |
| 試したこと | 選んだ方法、うまくいかなかった点、理由を整理します。 |
| 記載範囲 | 確認できない失敗や対立は加えません。 |
具体的なディテール
「売上が上がった」よりも、何がどう変わったかが分かる表現のほうが伝わります。固有名詞・数字・日付——具体性は、実際に確認できる範囲で正確に書くことが前提です。脚色のための数字の盛り上げは信頼を損ないます。
感情の起伏
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 当時 | その場面でどのように感じていたかを本人に聞きます。 |
| 転機 | 判断や気持ちが変わった出来事があれば確認します。 |
| 表現 | 取材者の推測を、本人の発言として書かないようにします。 |
普遍的なメッセージ
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 学び | 経験から何を見直したかを具体化します。 |
| 適用条件 | 同じ方法が使える条件と、異なる事情を説明します。 |
| 次の確認 | 読者が自社や生活で確かめられる問いを置きます。 |
| 要素 | 弱い表現の例 | 改善の方向 |
|---|---|---|
| 登場人物のリアリティ | あるお客様 | 役割と、課題に直面していた状況を説明します。 |
| 葛藤と障害 | 順調に成長しました | 実際に存在した課題や判断の経緯を記載します。 |
| 具体的なディテール | 大きく改善しました | 確認できる範囲の固有名詞・数字・時期 |
| 感情の起伏 | 成功までの説明のみ | 本人に確認できる感情や判断の変化を扱います。 |
| 普遍的なメッセージ | 頑張れば報われる | 自社の経験固有の学びに置き換える |
04中小企業がすぐ使えるストーリーテリング実践法
まず、創業、顧客対応、改善、日常業務の記録を探します。特別な逸話がなくても、実際に行った判断とその理由を素材にできます。

創業エピソードを「葛藤軸」で語り直す
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 動機 | どの課題を見て、事業を始めようと考えたかを聞きます。 |
| 判断 | 迷った選択肢と、実際に選んだ理由を確認します。 |
| 現在との関係 | 当時の考えが商品や接客にどう残っているかを整理します。 |
顧客の声を「Before-After物語」に変換
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 取材 | 導入前の課題、選定理由、対応、変化を確認します。 |
| 許可 | 名前・画像・数字を含め、掲載範囲を確認します。 |
| 構成 | BeforeとAfterを示し、Bridgeとして実施した方法を説明します。 |
失敗と改善の経緯を整理する
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 事象 | 何が起き、どこまで確認できたかを記録します。 |
| 対応 | 原因の調査と、実施した改善を区別します。 |
| 公開 | 関係者の確認を取り、公開できる情報を選びます。 |
従業員の日常を1人称で発信
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 素材 | 現場の工夫や判断を、本人の言葉で聞きます。 |
| 確認 | 本人の了承と、業務上公開できる情報かを確かめます。 |
| 形式 | 現場日記やインタビューなど、継続できる形を選びます。 |
| 素材の種類 | 掘り起こす問い | 向く発信形式 |
|---|---|---|
| 創業エピソード | 創業時に最も悔しかった出来事は何か | 創業者インタビュー記事・会社案内 |
| 顧客の声 | 導入前と後で何が変わったか | 許可取得済みのケーススタディ |
| 失敗談 | 何を学び、どう改善したか | ブログ・代表コラム |
| 従業員の日常 | 現場で大切にしていることは何か | 1人称の連載コンテンツ |
社内素材を発信に繋げる7つの実践ステップ
素材の掘り起こしから発信までの流れ
取材の件数や文字数は、素材と制作体制に合わせて決めます。継続して取材する場合は、依頼先、確認担当、公開時期を予定表に置き、取材内容を後から確かめられるよう保存してください。
05媒体別ストーリーテリング活用術
同じ物語でも、媒体によって適切な長さ・構造・トーンが変わります。媒体特性を理解した使い分けが、効果を左右します。

Webサイト・LP|冒頭で引き込む
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 何についての記事で、誰が参考にできるかを示します。 |
| 場面 | 具体的な出来事から始める場合も、記事の目的が分かる見出しを添えます。 |
SNS|シリーズ化で連続フォロー
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 短縮 | BABなどで論点を絞り、詳しい経緯へ案内します。 |
| 連載 | 各回で内容を理解できる見出しと、前後の記事へのリンクを付けます。 |
| 形式 | 投稿先に合う画像・字幕・文章量を用意します。 |
動画|冒頭の感情フック
動画では、視聴者が冒頭で内容を把握できるかを確認します。場面や問いを使う場合も、何のブランド・商品かを伝える設計と合わせて考えます。GoogleのYouTube広告向けABCD指針を参考にできます。
GoogleのYouTube広告向けABCD指針では、注意を引く設計・ブランドの提示・感情的な接点・行動案内を組み込むことが示されています。 出典:About the ABCDs of effective video ads - Google Ads Help
営業資料・メルマガ|相手の課題に合う事例を選ぶ
営業資料では、相手と似た条件の事例を選び、課題、対応、結果、適用条件を揃えます。顧客名を出せない場合も、掲載可能な業種や担当範囲から説明できます。
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| Webサイト・LP | 対象者、記事の目的、仕様・サービスへの導線を示します。 |
| SNS | 1投稿の論点を絞り、詳しい記事への案内を付けます。 |
| 動画 | 場面、音声、字幕、ブランド表示と行動案内を組み合わせます。 |
| 営業資料・メルマガ | 相手の課題と導入条件に合う事例や説明を選びます。 |
同じ素材は複数の媒体で活用できます。文章をそのまま載せるか、短縮や画像化をするかは、媒体の長さと読者の文脈に合わせて判断してください。
06ストーリーテリングを失敗させる3つの落とし穴
公開前は、読み手との関係、事実の確かさ、次の情報への案内を確認します。以下の3つに分けると点検できます。
読み手との関係が伝わらない
創業者が主人公でも、読者が知りたい商品や仕事へのつながりが説明されていれば構いません。誰を中心に描くかに加え、この記事を読んで何が理解できるかを確かめます。
盛りすぎ・脚色しすぎ
数字や経緯、発言は、記録と当事者への確認に基づいて掲載します。想定例を使う場合は例と明記し、顧客の実績や実際の発言として示さないでください。
物語だけで終わる
感動的な物語の後に「で、何をすればいいの?」が残ると、行動には繋がりません。物語の末尾には、問い合わせ・資料請求・次の記事など、読者が取れる具体的なアクションを必ず置きます。
| 落とし穴 | 起きる問題 | 公開前の確認項目 |
|---|---|---|
| 読み手との関係が不明 | 何の参考になるか分からない | 目的と、商品や仕事へのつながりを示します。 |
| 盛りすぎ・脚色 | 信頼の破壊・表現リスク | 事実と感情を分け、確認できる数字のみか |
| 物語だけで終わる | 行動に繋がらない | 末尾に具体的アクションがあるか |
公開前の5点チェック
| 順序 | 確認内容 |
|---|---|
| 1 | 読み手が知りたいことと、主人公の経験がつながっているか |
| 2 | 事実と感情が分けられ、誇張部分がないか |
| 3 | 物語の終わりに具体的アクションが置かれているか |
| 4 | 社内の複数メンバーに読ませて反応を確かめたか |
| 5 | 時間が経っても内容が古びないか、定期的に見直す計画があるか |
07ストーリーテリングの効果を測定する方法
「感動した」で終わらせないことが大切です。ストーリーテリングもデータで効果検証することで、継続的に改善できます。定量・定性の両面から測る方法を整理します。施策の対象・計画・予算を整理し、結果を継続して測ることは、マーケティング計画の基本でもあります。
マーケティング計画では、対象市場・競争上の違い・実行計画・予算を整理し、施策の結果を継続して測定する運用が示されています。 出典:Manage your business - Small Business Administration
定量指標|エンゲージメントとCVR
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| SNS | 投稿ごとの保存・共有・コメントを、表示回数や投稿条件と一緒に記録します。 |
| Webの閲覧 | エンゲージメント時間やスクロールなど、使うツールで計測できる指標を選びます。 |
| CVR | 例として、問い合わせが発生したセッション数÷対象セッション数×100と定め、期間と対象を揃えます。 |
| 比較の条件 | 流入元、公開期間、広告出稿などが違えば、差を物語だけの効果とは判断しません。 |
定性指標|顧客の語彙変化
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 質問 | どの記事や言葉が参考になったかを聞きます。 |
| 記録 | 発言と取材者の推測を分けて保存します。 |
| 解釈 | 記事接触の手掛かりとして扱い、購入理由や全顧客への浸透と同一視しません。 |
ブランドの印象・想起を分けて調べる
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 印象 | 会社名を示して印象を聞く場合は、その会社への連想を調べる質問です。 |
| 想起 | 業種などを示して思い浮かぶ会社名を聞く場合は、先に自社名を出さずに調査します。 |
| 集計 | 対象者、質問文、回答数を記録します。同じ条件で繰り返し、回答者の偏りも考慮します。 |
| 測定軸 | 使う指標 | 確認の頻度 |
|---|---|---|
| SNS | 保存・共有・コメントと表示回数 | 投稿ごとに記録 |
| Web | 閲覧指標と、定義したCVR | 同じ期間と条件で比較 |
| 顧客の言葉 | 参考になった記事・表現 | 問い合わせ時などに記録 |
| 調査 | 印象と想起を分けた質問 | 体制に合わせて定期実施 |
効果測定の運用サイクル
十分な閲覧や問い合わせが集まらない場合は、短期間の増減だけで成否を決めません。発信を続けながら、対象者への到達と内容の理解を分けて確認し、取材や説明を追加してください。
08物語を語る企業になるための最初の一歩
最初は、読者によく聞かれる質問と、社内に残る記録を照らし合わせます。創業の理由や顧客対応の経緯から、確認できる素材を1件選んで構成してみましょう。
| 行動 | 使う型・要素 |
|---|---|
| 創業や仕事で判断した場面を書き出す | 葛藤・具体性・感情の3軸 |
| 感謝された顧客事例を整理する | Before-After-Bridge |
| 失敗談と改善策をセットで書く | 葛藤と普遍的なメッセージ |
| 公開前に5点チェックを通す | 主人公・事実確認・アクション |
| 目的に合わせた期間で反応を確認する | 定量・定性・調査 |
素材を選んだら、当事者に事実と発言を確認し、公開できる範囲を決めます。記事から次に読んでほしいサービスや事例へ案内し、公開後の反応を次の編集に役立ててください。
相談の際は、業種・主な顧客層・現在の発信媒体・語りたい素材の有無(創業エピソード、顧客事例、失敗談など)を整理しておくと、どの型と媒体から始めるか具体的に検討しやすくなります。
自社の状況を相談する参照した一次資料
実務の進め方はVONDS編集部の整理です。本文で参照した仕組み・手順は、次の公式資料で確認しています。
- About the ABCDs of effective video ads - Google Ads Help確認日:2026年9月7日
- Manage your business - Small Business Administration確認日:2026年9月7日
- Joseph Campbell and the Hero’s Journey|Joseph Campbell Foundation確認日:2026年9月7日
- For Better Copywriting, P.A.S.T.O.R.|Ray Edwards確認日:2026年9月7日
- A Crash Course in Microcopy|Buffer確認日:2026年9月7日

