デジタルの担当者を育てたいとき、研修を選ぶ前に決めたいのは、どの業務をどう変えたいかです。この記事では、必要な役割の整理、採用と育成の比較、学習・実践・共有の進め方を解説します。公的な学習資料と社内で用意する記録を使い、最初に育てる仕事を決めるためのガイドです。
各章は「概念の整理→比較→実行手順」の順で読み進められます。表や工程図で全体像をつかみ、本文の手順を自社の状況に合わせて調整してください。人数や期間は一例であり、自社の計画として調整する前提のものです。

この記事でわかること 全7テーマ
01そもそもデジタル人材とは何か|誤解されがちな定義
プログラミングに限らず、データを読んで判断することや、仕事の流れを見直すことも育成の対象になります。まず、自社で必要な役割をそろえるところから始めましょう。
デジタル人材には、日々の仕事でデジタルを使う人と、変革を進める専門的な役割を担う人が含まれます。IPAのデジタルスキル標準は、全ビジネス人材向けのリテラシーと、DXを推進する人材の役割・スキルを分けて整理しています。
| 層 | 役割の内容 |
|---|---|
| 推進リーダー層 | DXの方向を決め、現場を動かす人 |
| 実装・活用層 | ツール導入やデータ分析を担う人 |
| 業務活用層 | 日々の仕事でデジタルを使いこなす一般社員 |
この3区分は、社内の担当を考えるためにVONDS編集部が整理した例です。IPAの標準そのものの分類ではありません。自社が必要とする仕事に合わせて、誰が方向を決め、誰が実装し、誰が日常業務で使うかを考えてください。
デジタルスキル標準は、全ビジネス人材向けのリテラシーとDX推進人材の役割・スキルを分けて整理しており、「全員が専門家」ではなく層ごとに求めるスキルを分ける考え方の根拠になります。 出典:デジタルスキル標準 | デジタル人材の育成 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
経験と意欲を、担当する業務に合わせて考える
対象者を選ぶときは、現在の知識に加え、業務上の課題への関心と、学習に使える時間を話し合います。本人の意欲だけに頼らず、上司が日常業務の量や実践の機会を調整することも必要です。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 専門スキル重視 | 既にIT知識がある人を選ぶ。ただし業務課題への関心が薄いと実践につながりにくい |
| 変える意欲重視 | 課題意識を持ち改善に動ける人を選ぶ。スキルは学習で補う前提 |
02採用・育成・外部支援を組み合わせて考える
必要な能力を確保する方法には、採用、社内育成、外部への依頼があります。どれか1つに決める前に、必要な時期と、自社に残したい知識を整理しましょう。
IT人材の需給は最新の公表資料で確認する
人材の確保を考える際は、社内のスキルと実際の募集状況を確認します。国の需給調査を使う場合も、調査時点や対象、推計の条件を確認し、自社の採用難易度を示す数字としてそのまま使わないようにします。
採用競争における中小企業の構造的な論点
給与、業務内容、働き方、キャリア形成など、募集する条件を整理します。採用にかかる時間だけでなく、入社後に業務を理解してもらう時間も見込み、育成や外部支援と比較してください。
| 比較軸 | 採用中心 | 育成中心 |
|---|---|---|
| 対象 | 外部の市場で人材を獲得する | いまいる社員を育てる |
| 業務理解 | 外部人材は業務理解に時間がかかる場合がある | 既存社員は自社業務を知っている |
| 継続して働く環境 | 入社後の役割と支援方法を決めます。 | 学習時間と、身につけた能力を使う機会を用意します。 |
社内の知識を活かして学ぶ場合の確認
| 確認する点 | 実施する内容 |
|---|---|
| 題材 | 本人が理解している日常業務を、実践に使えるかを話し合います。 |
| 時間 | 学習に必要な時間と、通常業務の調整方法を決めます。 |
| 希望 | 今後の役割への本人の希望と、負担に感じる点を確認します。 |
03社内育成の5ステップ
目的、対象者、学ぶ内容、実践する仕事、共有方法を順に決めます。受講そのものを終了条件にせず、学んだ内容をどの業務で使うかを計画に入れます。

ステップ1〜2:現状把握と目標設定
| 確認する点 | 実施する内容 |
|---|---|
| 対象業務 | 誰が、どの手順を担当しているかを書きます。 |
| 課題 | 時間や誤りなど、変えたい点を記録します。 |
| 到達点 | 学んだ後に実施できるようになりたい作業を決めます。 |
社内育成の5ステップ全体像
ステップ3〜5:学習・実践・共有
講座を受けた後は、対象業務で試し、分からなかった点を記録します。期間や人数は自社の規模に合わせて調整します。
| 段階 | 残すもの |
|---|---|
| 現状把握 | 対象業務の手順、所要時間、課題の一覧です。 |
| 合意 | 本人・上司が合意した到達点と、学習に使う時間です。 |
| 学習 | 受講内容、分かったこと、未解決の疑問のメモです。 |
| 実践 | 試した内容と、導入前後で変わった手順・時間の記録です。 |
| 共有 | 他の担当者が再現できる操作手順と注意点です。 |
育成の核は「学ばせて終わり」にしないことです。学習・実践・共有の3点セットを、小さく毎月回す形を目指します。
IPAはDXの自己診断指標、実践資料、事例、人材育成資料を提供しており、ステップ1の現状把握や課題の社内共有に活用できます。 出典:デジタルトランスフォーメーション(DX) | 社会・産業のデジタル変革 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
04公的な学習資料と支援制度を調べる
「予算がない」場合でも、公的な学習基盤や助成制度を確認する選択肢があります。サービス内容や助成条件は変更されるため、利用前に公式情報を確認する手順を前提にします。
国の学習プラットフォームを確認する
マナビDXは、デジタルスキルを学ぶ講座を探せるポータルです。学びたい分野、受講の条件、料金、必要な前提知識を確認し、業務で使う目的に合うものを選んでください。
補助金・助成金で研修コストを抑える
研修への支援制度として、人材開発支援助成金などを調べる方法があります。対象となる訓練、事業者の要件、提出書類と期限は、利用するコースの公式資料で確認してください。
| 確認する点 | 実施する内容 |
|---|---|
| 対象 | 利用する制度とコースに、研修内容が合うかを確認します。 |
| 時期 | 契約、訓練、届出の順序と期限を調べます。 |
| 不明点 | 公式資料で判断できない条件を、担当窓口へ問い合わせます。 |
助成金活用の確認フロー
| リソース | 特徴 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 国の学習ポータル | DX関連講座をレベル別に探せる | 掲載講座・利用条件の最新情報 |
| IPAの資料 | 自己診断指標や育成資料を公表 | 自社の現状把握に合う資料選び |
| 助成金 | 研修費・賃金の一部助成の可能性 | 事前申請の要否と対象要件 |
マナビDXでは、学習したい内容や条件に合わせて講座を探せます。 出典:IPA:マナビDX
厚生労働省は、職務に関連する職業訓練等について、対象経費や訓練期間中の賃金の一部等を支援する人材開発支援助成金を案内しています。 出典:厚生労働省:人材開発支援助成金
05失敗しやすい3つの落とし穴
研修を実務につなげるために、次の3点を事前に確認します。学ぶ担当者だけに責任を集めず、実践する職場の準備も進めましょう。
落とし穴1:丸投げと「資格取得」のゴール化
| 決めること | 確認する内容 |
|---|---|
| 業務 | 何の仕事で学んだ内容を試すかを決めます。 |
| 成果 | 操作できること、改善した手順、確認できる記録などを定めます。 |
| 支援 | 困った際の相談先と、上司が確認する機会を用意します。 |
落とし穴2:育てた人を「孤立」させる
| 準備 | 実施する内容 |
|---|---|
| 相談相手 | 同僚、上司、外部の支援先から相談できる人を決めます。 |
| 業務調整 | 学習と実践の時間を確保し、既存の仕事の分担を調整します。 |
| 共有 | 担当者以外にも手順と記録を見られるようにします。 |
落とし穴3:経営者が「我関せず」
経営者や上司は、育成の目的、利用できる時間、実践を進める権限を明確にします。定期的に困りごとを聞き、必要な人員や環境を調整してください。
| 落とし穴 | 起きやすいこと | 回避の考え方 |
|---|---|---|
| 丸投げ・資格ゴール化 | 受講しても業務が変わらない | 受講後に適用する業務を先に決める |
| 育てた人の孤立 | 相談や業務調整が進まない | 複数名でチームとして育てる(人数は計画例) |
| 経営者の非関与 | 仕事としての優先順位が曖昧になる | 経営者が目的と期限を語り続ける |
06育成を仕組みにして文化に変える
学んだ内容を継続して使うために、他の担当者へ伝える機会と、成果を記録する方法を用意します。

「教える側」に回す好循環
| 確認する点 | 実施する内容 |
|---|---|
| 手順書 | 試した操作を、別の人が再現できる形で残します。 |
| 説明の場 | 業務の目的と、操作時の注意点を伝えます。 |
| 見直し | 次の担当者が迷った部分を記録し、資料を直します。 |
教え合いの好循環
小さな成功を全社で可視化する
共有する成果は、実際に測った作業時間、処理件数、誤りの件数などで説明します。「誰が、どの仕事を、どう変えたか」を記録し、比較した条件も添えてください。確認できない削減効果を社内の実績として示さないようにします。
| 仕組み | 具体的な運用例 |
|---|---|
| 教える役の循環 | 育成した社員に、翌期は「教える役」を任せる |
| 成果の可視化 | 成果を月1回、全社に1枚で共有する |
実践した手順を他の担当者が試し、疑問があれば資料を直します。共有の頻度は自社の体制に合わせて決め、担当者が変わっても学びを使えるようにしておきましょう。
07まとめ|育成の第一歩を今日から
育成を始める際は、身につける能力と、それを使う業務を一緒に決めます。学習、実践、共有を続けられるよう、本人と上司が時間や支援方法を話し合ってください。
| 章 | 論点 |
|---|---|
| 役割 | 日常業務で使う能力と、DXを推進する役割を分けて考えます。 |
| 方法 | 採用・育成・外部支援を、時期と必要な能力から比較します。 |
| 手順 | 現状把握→合意→学習→実践→共有の5ステップ |
| リソース | 公的ポータル・助成金を確認して活用 |
| 注意点 | 丸投げ・孤立・経営者の非関与を避ける |
| 文化化 | 教える役の循環と成果の可視化 |
まず、自社でデジタル化したい業務をいくつか書き出してみてください。そこから対象者と学習内容を決め、実践と共有の計画につなげます。
相談の際は、デジタル化したい業務の候補、育成対象者の候補、現在の業務の進め方を整理しておくと、具体的な計画の検討が進めやすくなります。
自社の状況を相談する参照した一次資料
実務の進め方はVONDS編集部の整理です。本文で参照した仕組み・手順は、次の公式資料で確認しています。
- デジタルスキル標準 | デジタル人材の育成 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構確認日:2026年9月7日
- デジタルトランスフォーメーション(DX) | 社会・産業のデジタル変革 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構確認日:2026年9月7日
- IPA:マナビDX確認日:2026年9月7日
- 厚生労働省:人材開発支援助成金確認日:2026年9月7日

